トマトの運命
ある日、近所のコンビニにトマトが売っていた。
ビニールの袋に3個ぐらいずつ詰めてあり、かごに盛られていた。そして、「近くの菜園で採れた無農薬トマトです」「2日後ぐらいが食べ頃です」と書いてあった。値段は300円程度だったと思う。
よく見ると、青々とした瑞々しいトマトである。大きさも丁度よい。そして、確かにあと2日ぐらい経ったほうが美味しいかな、とも思った。しかしながら、とりたててトマトを食べる気分ではなかったので買わずに済ませた。
次の日、仕事帰りにまたコンビニに立ち寄った。例のトマトは前日と同じ状態で売られていた。まだ買う人がいないのかな?とチラリと思ったが、再びスルーした。トマトの色もあまり変化はなかったようだ。
さらに次の日。今度はちょいと気になってトマトを見に行った。なぜならあれから2日が経過したからである。そろそろ誰かに買われている頃だろう。もしかしたらじぶんと同じことを考えている人が何人もいて、トマトはなくなっているかも知れない…などと想像しながら。
果して、トマトは同じ状態でその場所にあった。誰かが買って減っている様子もない。トマトの色は心なしか赤くなってきており、食べ頃感がみなぎっている。十分に美味しそうだ。
しかし、問題の本質はそんなことではなかった。すでに2日が経過しているにも関わらず、「2日後ぐらいが食べ頃です」という表示がそのままなのだ。おいおい、それじゃあ今日買った人は都合4日後に食べることになるぞ。それでいいのか?
次の日、不安は的中した。
トマトたちは同じ場所にいて、誰かが買ってくれるのを待っていた。見た目は赤く熟していて、食べ頃ですよ!と無言で訴えている。そして、相変わらず「2日後ぐらいが食べ頃です」と表示されたままである。なんてことだ。
「こうなったら毎日このトマトたちを見守ろう」と決意し、毎日足繁くそのコンビニに通ってトマトたちを観察した。そして10日が経過した。
恐るべきことに、トマトたちは真っ赤っかに熟れている。売れた気配もない。もちろん「2日後ぐらいが食べ頃です」の表示もそのままである。
店員たちは毎日このトマトを見ながら、どんなことを考えているのか気になって仕方がない。
「トマト、全然売れませんね」
「いや、もう少し待てばきっと誰かが買ってくれるよ」
そんな根拠のない希望を抱いているのかも知れない。希望とは根拠のないものだと昔から決まっている。
・・・・・
残念ながら、いくら待ってもあのトマトは誰も買ってくれないと思う。そして、トマトは静かに確実に赤みを増していくと思う。近くの菜園で採れたトマトたちよ、そのまま近所の人に配られていたら、美味しく食べてもらったであろう。今は、コンビニの片隅でじぶんの運命に従うしかない。
トマトにはトマトの運命があるのだ。
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コメント
>トマトにはトマトの運命があるのだ。
そして人には人の運命があるのだ。
と言われると、ちょっと怖いですね(笑)。
投稿: 井上弐式 | 2009年5月24日 (日) 12時16分
くりりんさんがおかあさんに
「もうゲームするのやめなさい」としかられて
「あと10ぷんだけ」といいわけし
しばらくしてまたおかあさんからちゅういされ
「あと10ぷん」とこたえ
またさらに・・・・
という、むげんループにもにたおはなしだとおもいました。
えいえんの、あとふつか。
投稿: クリリン | 2009年5月25日 (月) 00時59分
井上氏
トマト、まだ売っていました。
ホラーです。
投稿: 丸の内べる | 2009年5月25日 (月) 17時04分
クリリン氏
「世にも奇妙な物語」
で使ってください。
投稿: 丸の内べる | 2009年5月25日 (月) 17時05分