品川プリンスシネマのタダ券をもらったので、ネット上で話題の映画を観てきた。
「フジテレビ開局50周年記念作品 アマルフィ 女神の報酬」
あらすじは以下のとーり。
イタリア大使館にクロダとう名前の外交官が着任した。このクロダというオトコの過去は謎に包まれている。日本のワンガンショという企業で米軍払い下げのコートを着て働いていたというウワサや、セカイリクジョウというイベントが開催されると決まって召喚されるというウワサや、目薬をさしただけで「キターーー!」と叫んでしまい職質かけられたというウワサがある。
クロダはその名前通り、クロがダイスキだ。コートもスーツも革の手袋も何もかもがクロ。クルマだけはシロのランチアデトラに乗っているが、これはじぶんで選んだわけではないので仕方がない。作品の途中で二度ほど映像がブチキレ、まるで放送事故のような黒画面になるのだが、これもクロダのシンボルカラーをイメージしたものである。
クロダの自慢は自身のクールな言動と完璧なイタリア語である。
そのころ、日本人の親子がイタリア観光にやってきた。観光の目的は、「娘が目の手術をする前に美しいイタリアの景色を目に焼き付けておきたい」というなんだか都合のいい設定である。そして、都合よく美術館で誘拐され、都合よく捜査にクロダが協力する運びとなる。この映画に登場する日本人は、クロダ以外はイタリア語ができないという神設定なので、犯人からのイタリア語デンワやメールを判読できるのはクロダしかいないのである。「思わぬ事態に巻き込まれた」のでもなければ、「先の読めない展開」でもない。すべてはお約束通りに進行する。
さて、天才クロダは防犯監視カメラの映像に細工がしてあることに気が付いた。犯人の姿が映像処理によって消されていることを、ローソクの炎の揺れによって見抜いたのである。犯人が通ると、ローソクの炎がものすごい揺れ方をするのである。さすが、イタリア!スケールが違う。
さらに、犯人から送られてきたメールの画像(誘拐された娘が新聞を持っている)を見てクロダは、「大丈夫、まどかちゃんは生きています、今日の新聞だ」と自信たっぷりにのたまう。そうさ、あの画像が今日の新聞だなんて分かるのはイタリア広しと言えどもクロダしかいないのさ。しかも、このステキネタをなぜか二度も使うから、余程スゴイ能力に違いない。なお、犯人からメールが届いても、それを解析して逆探知などしてはならない。そんなことすると、犯人がすぐに捕まってしまう。
ここに、フジイ(佐藤浩市)というオトコが絡んでくる。フジイは誘拐事件の親子の知り合いである。知り合い程度なのに、イタリア旅行を世話しなおかつ心配で思わずロンドンから飛んできたという、「すみません、わたしが犯人です」という紙を背中に貼ったような登場の仕方をしてしまう。そして、娘を誘拐された母親(天海祐希)も、日本の家族や親せきにはデンワ一本かけず、このフジイというオトコだけを頼るのである。なぜなら、フジイに頼ってこないとこの犯罪は成立しないからである。万一、母親がフジイではなく他の誰かを頼ってしまったら、フジイのほうから、「もしもし~、久しぶりゲンキー?え?まどかちゃんが誘拐された?ヤバクね?心配だから行くね!」とデンワする羽目となるはずだ。
この映画の重要な鍵は、docomo のケータイである。
いつどんな時でも電波がつながり、音声もクリアで、画像を添付したメールもサクサク送れる。しかも、犯人からの着信があると、母親は毎回毎回ありえないほどに取り乱して慌てふためく。イタリア語ができるのはクロダだけなので、この重要な docomo のシーンはクロダのメシウマ場面となっている。
さて、アマルフィである。公式サイトのストーリーには、「様々な思いが交錯する中、黒田は事件の鍵がイタリア南部の美しい港町・アマルフィにあることを突き止める。果して犯人の目的とは、そして外交官・黒田が見出した事件の全貌とは---」とある。
これはすべてウソだ。
事件の鍵は前述のとおり、スポンサー様であるところの docomo のケータイであり、アマルフィはロケをするための口実である。この地である必然性はまったくない。
そんなアマルフィに真っ赤なアルファロメオに乗ったフジイがのこのこやってくる。ここでも、「思わず心配で来ちゃった」などと言うから見ているほうはウソがバレやしないかとヒヤヒヤする。そして、案の定クルマが雪で汚れていないためにクロダがフジイのウソを見抜くのである。サスガとしか言いようがない。最初でフジイの身元当たっておくなんてヤボなことはしないのが、オトナの外交官である。そんなことしたら、一発で犯人だと分かってしまうから興ざめだ。アマルフィでアルファロメオの車体を見て、はじめて気が付くのが粋ってもんである。
この母親はこのあと、フジイに命令されてミネルバというセキュリティ会社で拳銃を持って暴れることになる。イタリア全土をカバーするセキュリティ会社の監視システムに民間人が入室できるのも神だが、拳銃で脅してセキュリティを解除させ、その間に犯人がハッキングするというのも神である。よーするに、コレがやりたくて娘を誘拐したのである。余りの回りくどさに、「これがホントの余るふぃ」とつぶやきたくなる。いや、つぶやいておこう。
ここでもクロダはカッコイイアクションを見せつける。キャプテン翼好きという設定のイタリア人警部に拳銃を突きつけ、母親を逃がし、一緒に逃亡するのだ。斜め上行く超展開だが、がんばってついていかねばならない。
一方犯人グループは、ハッキングに成功すると、彼らのターゲットである外務大臣がいる日本大使館へと向かう。そして、なぜかハシゴを使って大使館に侵入する。
もう一度言う、ハシゴである。
ひょっとしたら、トム・クルーズだって一度ぐらいはハシゴを使って侵入したことがあるのかも知れない。かなり大胆で芸術的な侵入方法である。大使館の壁に掛けられたハシゴは目立つかも知れないが、そんな細かいことを気にしてはいけない。映画は分かるんじゃない、感じるんだ!
無事にパーティー会場に潜り込み、首尾よく外務大臣に拳銃をつきつけ、カメラに向かって「悪事」とやらを白状させるフジイ。フジイの動機は思いっきり私怨なのだが、ハシゴを使ってまで犯行に及んだその心意気に免じて許してやろうではないか。
遅れてクロダ登場。
丸腰であることを示すため、ヘンなポーズをとりながらフジイに近づいてくる。笑いそうになるのを必死でこらえたよ。クロダ、おまえには誰もかなわない。そして、とどめのセリフ、「たとえどんな人でも邦人を守るのがわたしの使命だ」をキメル。
コレを聞いてすべてが氷解した。つまり、こゆことだね。今回映画を製作するにあたり、例のキメセリフ「事件は会議室で~」に代わるニューキメゼリフを真剣に考えたのだ。散々考えた挙句「邦人を守るのが~」が生まれ、このセリフをいかにキメルかという着地点にむけて物語が展開したのである。このセリフさえバッチりキマれば、ハシゴなんて気にならないよ。うん。
事件は解決し、クロダは南米ウルグアイへ行ってしまった。
いったい、なにが「アマルフィ」で「女神の報酬」なのかサッパリ分からなかった。
追記
クロダと天海が夜の窓辺で抱き合うシーンがあるが、クロダはゲイなのでまったくドキドキしない。むしろ、イタリア警部と握手するあたりがヤラシく感じるぜ。
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